第一回 靈根育孕源流出 心性修持大道生

東勝神州は傲来国に花果山という名山在り。其の山頂に仙石があり、其の仙石が一つの卵を産んだ。其の卵が風を受けて一匹の石猿を生んだ。

石猿は仲間の猿達と偕に水簾洞という洞穴を見付け、其処に住まう。

最初に水簾洞を見付けたのが石猿であった為、渠は猿達の王に推戴され、「美猴王」を名乗る。

あっという間に3400年が経過(おいおい)すると、美猴王は俄かに寿命が尽きるのを恐れ出し、不老不死の術を会得する旅に出ようと思い立つ。

筏を組んで出立し、南贍部州を経由し西牛貨州へ上陸。其の地で須菩提祖師なる仙人に師事し、名を貰う事になるが、其の経緯はこうだ。

「其の方は(さる)似ておるゆえ「」という姓を付けて進ぜる。が、という文字は獣偏を取れば古と月になる。古は老で月は陰であり、これでは成長する事能わぬ。されば「」という姓が良かろう。これなれば獣偏を除いても子と系となる。子は児男(おとこのこ)であり系は嬰細(おんなのこ)じゃ。」

更に、

「我が門には広大智慧真如性海頴悟圓覺の十二の文字がある。それを夫々に配当して名付ける事になっておるが、其の方は十列目の弟子に当たるゆえ、「悟」の文字を用い、法名を悟空と呼んでとらせる」

とて、此の回で孫悟空と名付けられる訳である。

以上、此の回に文句は無い。


第二回 悟徹菩提真妙理 斷魔歸本合元神

祖師に弟子入りして6〜7年も経つと、祖師は悟空の才能を見込んで、マンツーマンで地煞七十二般の変化と觔斗雲を教授した。

或る時、兄弟弟子が戯れに「松の木に化けてみつくれ」と悟空に依頼。悟空は素直に化けて見せた。

兄弟弟子達は「好猴儿,好猴儿!と呵呵大笑其の騒ぎを聞きつけた祖師は皆を散開させ、悟空に言うよう、

「術を人に見せびらかせば、見た者は必ず術の教えを請うであろう。夫れを断れば、其の者は必ずや其の方に害を為そう。おのしの如き者は疾く此処を立ち去れ。此処を立ち去ればおのしは恐らく碌な者には成るまい。今後おのしが如何様なる乱暴狼藉を働こうとも、構えて儂の弟子だなぞと申してはならぬ。若し一言でも左様の事を申さば、おのしの皮を剥ぎ、骨をへし折って、其の魂魄を九泉の下に放逐し、未来永劫戻る事能わぬ様に致し呉れようぞ。」

悟空は承知すると、早速觔斗雲を駆って花果山水簾洞へと舞い戻る。

古巣に帰ると、水簾洞は何者かに荒らされて居り、何事かと猿達に事情を訊けば、混世魔王なる化物に荒らされた由。

怒った悟空は直ちに觔斗雲にて混世魔王の棲む水臓洞へと向かう。

武装して刀を振り回す魔王に対して徒手空拳で立ち向かった悟空は、魔王の刀を奪って真っ向から一刀両断に斬り捨てた。

そののち洞に巣食う魔物共を一掃し、拉致された猿達を救出して水簾洞へと戻って芽出度し芽出度し。

此の項も文句無し。


第三回 四海千山皆拱伏 九幽十類盡除名

或る時、七兄弟揃って酒宴を設けた後、寝入り込んだ悟空を冥界の捕吏が引っ立てて、幽冥界へ連れて行ってしまった。

酔いの醒めた悟空は、

「儂は三界(欲界・色界・無色界)の外に出て、五行の裡には居らんのだから、最早閻魔の指図等受けては居らぬ。なにゆえ差し出がましくも捕まえに参ったのだ」

と言ったが、捕吏達が耳を貸そうとしないので、如意棒で捕吏達をひき肉の様にグジュグジュに叩き潰してしまう。

驚いて出て来た十大閻王達に、今度は生死簿を持って来る様命じ、自分の名と、名の有る猿達の名を消してしまう。

悟空はそれで現世に戻ったが、閻王達は翠雲宮の地蔵王菩薩に是を訴え、玉帝に上奏する事を決した。

玉帝が或る日、朝政事をとっていた時、不意に邱弘済真人が東海龍王敖広が訴えに来ている旨を伝えた。玉帝が許したので龍王が上奏文を読み上げると、玉帝は早速に兵を繰り出して悟空を捕えさせる事を約した。

次に葛仙翁天師が進み出て、閻王の一人秦広王が矢張り訴えに来ている事を告げる。秦広王が同様に上奏文を読み終えると、玉帝は同じく悟空を捕えさせる旨約したものだった。

扨、誰を捕えに差し向けたものかと相談する段階に至った時、太白長庚星(金星)が進み出て、大軍を動かすよりも、悟空に何か官職を授けて天界に引き込んだ方が得策だと進言した。

玉帝は尤もだと是を許し、太白金星に招安の交渉を命じた。聖旨を奉じて金星は悟空の元に交渉に向かったが、畢竟不知授個甚官爵,且听下回分解。


第四回 官封弼馬心何足 名注齊天意未宁

扨、悟空は金星と偕に天界へ行き、霊霄殿の玉帝にまみえた。

玉帝は文武の仙卿達に、何処かに欠員があれば、其処に悟空を任命する様申し付けたが、武曲星君が進み出て、厩の管理職の欠員があるだけだと云うので、「されば彼を『弼馬温』に任じて遣わせ」との玉帝の鶴の一声。

官職を賜った事が嬉しくてたまらない悟空は、所謂「馬の世話役」を一生懸命働きます。

或る日、厩の役人達が、上司たる悟空の歓迎会を開いてくれたので、気持ち良く呑みながら何気無く、「儂の『弼馬温』と申すのはどういった官職なのか」と部下に尋ねると、

「斯様の官は最も低く、馬の番をするのみの役柄である。長官は着任されてより随分念入りに飼育して、馬は肥え太ったけれども、結句「よかろう」と言われるだけ。それが仮に少しでも痩せさせたり怪我でもさせようものなら弁償させられたり罰せられたりするのだ」

との事。

聞いて怒った悟空は、さっさと觔斗雲を飛ばして水簾洞に戻ってしまった。

すると天界で官職を授かった悟空が戻って来た事を聞きつけた、付近に棲む独角鬼王というのが挨拶がてらやって来て言うには、

「王様は神通広大ですのに何ゆえ「弼馬温」等?「斉天大聖」になられても良いのでは?」

成程と思った悟空は、早速「斉天大聖」と大書したのぼり旗を用意させ、門口に飾った。

一方天界では、或る日玉帝が玉座に登ると、張天師が厩の役人達を引連れて進み出、悟空が官職が低い事を不服として天宮から出て行った旨を言上した。

続いて南天門を守る増長天王も「何ゆえか弼馬温が天門から立ち去りました」と言上。

「相分かった。両人共職務に戻るが良い。朕は天兵を遣わして此の妖怪を捕えさせるであろう」と玉帝。

ちょっと待て。天から迯げ出しただけで天兵を繰り出して捕り物とは・・。

中国人は天界を現実の朝廷に当て嵌めて其の世界観を構築している。故に是は職務怠慢の上の脱走という罪にあたるんだろうが、併し人間界のルールを其の儘天界に当て嵌めるというのもどうかと思えなくも無い。

西王母やら何やらという、神様から生まれた、生まれつきの神様なら天界のルールに従いなさいと言われるのも致し方無かろうと思うが、元々人間である仙人迄がそうしたルールに縛られるというのはおかしくないか。そもそも人間が仙人となろうとする動機とは、不老不死且つ世の中のどんな事象にも囚われない究極の自由を求めての事であろう。それが「天界で暮らす資格あり」として玉帝より天界に召されたからとて、そんな不自由な生活を強いられては、一体何の為に労苦を重ねて仙人になったのか解らないではないか。

すると托塔李天王と其の第三子である哪咤三太子が捕り物に志願したので、玉帝は托塔李天王を降魔大元帥に、哪咤三太子を三壇海会大神に任じて下界へと出兵させた。

李天王の組織した軍が花果山に着くと、先鋒を務める巨霊神が先ず降伏を勧告してきたので、悟空は自分を斉天大聖に任じる様、玉帝に伝言しろと要求。其の後悟空は巨霊神と哪咤を相次いで撃退した。指揮官にも拘わらず青くなって全軍に退却を命じた李天王は、尻尾を巻いて天界に逃げ帰り、玉帝に彼の要求を言上した。

此の時、勝って気を良くした悟空は、六兄弟に向かって、

「身共が既に斉天大聖を名乗って居る事ゆえ、諸君も大聖を名乗って苦しからず」

と言った事に由り、牛魔王はじめ六兄弟も夫々「大聖」を名乗る事となる。

扨こちらは天界。李天王は下界で有った事を玉帝に復命し、続いて哪咤が、悟空を要求通り斉天大聖に任ずる事の有益を説くが、玉帝は哪咤のいう事には耳を貸さず、重ねて出兵しろと命ずる。見兼ねた太白金星がまたもや進み出で、哪咤の主張の焼き直しを語る。即ち、

「兵を増強し、彼奴と戦えば、兵を疲弊させるのみ。それより彼奴を斉天大聖なる名目上の官職に任じ、職も碌も与えず天界に軟禁致さば四海は平穏と申すもの」

「左様か。然らば其の方裁量にてはからえ」

と、如何にも主体性の無い玉帝の言葉。

斯くして再度金星が悟空を招聘。玉帝にまみえさせると、玉帝、

「孫悟空、是よりそちを斉天大聖に任ずる。官位は最高であるが、勝手な真似は致すでないぞ」

とて、蟠桃園の右手に斉天大聖府を建造させ、其処に常駐させる事に。


第五回 亂蟠桃大圣偷丹 反天宮諸神捉怪

勤務したはいいが、やることが無い大聖。暇なので遊びまわっている。

三清に会えば「老(さん)」と呼び、四帝に会えば「陛下」と呼び、九曜星、五方将、二十八宿、四大天王、十二元辰、五方の五老、天の星々、天の川の神々とは兄弟付合い。

すると、許旌陽真人が、「斉天大聖は遊びまわってばかりいる」と玉帝に言上した為、玉帝は大聖に蟠桃園(西王母の桃園)の管理を任せた。

或る日、西王母が瑤池で蟠桃勝会を催すので、仙女達が使いとなって桃園に桃を取りに来た。大聖は着任早々、早速殆どの桃を捥ぎって食ってしまって、折りしも昼寝をしていた処。其処へ仙女達が現われたので、起き直って事情を聞くと、

「西王母が瑤池で蟠桃勝会を催すので桃を取りに来た。西天の仏様、菩薩様、聖僧、羅漢、南方の南極観音、東方の崇恩聖帝、十州・三島の仙人方、北方の北極玄霊、中央の黄極黄角大仙、五斗星君、三清、四帝、太乙天仙達、玉皇、九塁、海岳神仙、幽冥教主、注世地仙達、亦、各殿・各宮の尊神達等を招く予定」

だという。

大聖は、其の中に自分は入っているかと問うと、入っていないというので怒りが爆発。

仙女達に金縛りの法を掛け、觔斗雲で瑤池へ向かう。途中、蟠桃勝会へと向かう赤脚大仙と会ったので、大仙に嘘を教えて反対方向へとUターンさせ、自分は赤脚大仙に化けて通明殿へと向かう。

会場に侵入すると、其処には、

「瓊香繚繞,瑞靄繽紛。瑤台鋪彩結,寶閣散氤氳。鳳翥鸞翔形縹緲,金花玉萼影浮沉。上排著九鳳丹霞嘗,八寶紫霓墩。五彩描金桌,千花碧玉盆。桌上有龍肝和鳳髓,熊掌与猩唇。珍饈百味般般美,异果嘉肴色色新。」

と、珍しい調度品やら食い物が一杯。

併し鳥渡俟て。テーブルの上に並んでいる物の中に「熊の掌と猩の唇」というのがあるが、仏や菩薩も招かれてる席にわざわざこうしたものを出すのは、仏や菩薩も食うものと思っているからに違いない。のちに釈迦が悟空を召し捕えた際にも、玉帝は釈迦の前に敢えてナマグサを並べてもてなしている事からも、釈迦がナマグサを食って当然との認識で居る筈である。

道教の神々やら仙人を祀る廟に参拝する時、子豚の丸焼きやら何やらを供物として捧げる事はあるらしいから、道教の神仙がこうしたものを食っても差し支えないんだろうが、併し知っての通り、仏教ではナマグサは厳禁である。物語中、三蔵も頑なにナマグサを食べる事をしない。それを仏教徒の棟梁たる釈迦如来が先頭切って食うとは何事か。更にテーブルの上には「龍の肝」と「鳳の髄」というのがある。

確かに龍と鳳は吉祥シンボルの最たるものであり、「其の肝を食えば不老長寿になる」という事を言いたいのは分かるが、物語中での龍の扱いは、井戸や河川、大海の守護神であり、玉帝を頂点とする指揮系統の中に完全に組み込まれた「官」の存在である。それを宴席だからといって、直ちに「食材」扱いをしていいものだろうか。「鳳」というのは物語中では慥か擬人化して描かれていなかったと記憶するが、一般的には龍と対を成す存在として認識されている筈であり、であるなら矢張りこれも単に「食材」扱いされていいものではなさそうに思えるのだが。

そもそも、こうした宴席に招かれるのは高名な神々だとか仙人だが、してみると四海の龍王が呼ばれる可能性だって有る訳だ。四海の龍王は目の前のテーブルに「龍の肝」が載っていた場合、手を付けるのだろうか。
中国人は伝統的に人肉を喰うが(そういう風習の例として能く挙がるのが三国志演義で劉備を持て成す為に人肉が出されたと云うエピソードだ。亦、現在でも密かに赤ん坊の肉が喰われている等と云う噂が囁かれる)、其の意味では龍王が龍を喰う「共食い」が別段疑問視される程の事もないのだろうか。

大体が、神仙は元より、如来や菩薩というのは、煩悩を断ち、清貧な生活を続けて修行に明け暮れ、苦労して昇天した挙句、こうしたものを喰って盛大に宴会なぞやるんでは、一体何の為に煩悩を振り払う修行をしたのか分からんではないか。逆にこうしたものを喰って騒ぎたいが為に修行を積んだのか?とも言いたくなる。

大聖は全部それを飲み食いしてしまう。喰い終わって迯げ出したが、酔っ払って居り、斉天府に帰るつもりが、太上老君の住居する兜率天宮へと迷い込み、保管してあった仙丹を全部食ってしまう。(因みに、桃一個、酒半甕でも飲めば不老長生。金丹も勿論不老長生が目的で食うのだし、龍肝やら鳳髄等というのも、恐らくそうした目的で食うのだろう。それを桃園の桃の殆ど、テーブルの上の食い物を平らげ、酒を浴びる程呑み、金丹の詰まった瓢箪五つ分喰ってしまったんだから、此の時点でかなり無敵状態に入っている。)

大聖は遉がにヤバイと思ったか、また天界を逃げ出して下界に帰ってしまう。

扨天界では大騒ぎ。犯人は大聖だと調べがついて、玉帝は早速四大天王、五方掲諦、李天王、哪咤太子、羅睺、計都星、太陰星君、太陽星君、五行星、九曜星、十二元辰、五瘟、五岳、六丁、六甲、四海の龍神、二十八宿等で構成する軍を編成して地上に送り、大聖を捕えようとします。

花果山に布陣した神軍は、二十八宿、四大天王、哪咤、九曜星を突撃させるが、悟空はこれを撃退。次回へ続く。



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