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壱、 或人大路を行けるに、向うより迯ぐる者追い来て、「それそれ其の者を討て給り候へ」と「頼む」と呼はわりたり。「心得たり」とて彼の迯ぐる者を何の手も無く切り殺す時に、さきに「頼む」と詞をかけたる者、いづくへはづしたるや行方知れず。とやかくする内に所の者立ち出で、かの頼まれて切たる者を捕らへて、「仔細無くば切玉はじ。其の方を逃さじ」と云ひて奉行所へ連れ行きけるに、申訳たちがたく切腹したりとなり。 |
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弐、 又或人、前の如く頼まれしに、「心得たる」とて追いかくる者の間近く来るを見合せて、迯ぐる者を一太刀に討て、扨追い来る者をとらへて、「其の方頼みにより討ちたり。其の方の主人は誰にて有や。事の由を聞き届くべし」と云、彼の追い来たりし者、「いかにも我頼み申したるに紛れなし」とて所の者にも断り、首尾よく埒明けしと也。 |
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参、 又或所にて、前の如く「それそれ頼む」と云しを、「心得たり」とて向うより来る人刀を抜て迯げ来るを一討ちに切り殺したり。追いかけし者来て、「扨々不慮成る事哉、『それ頼む』と申したるは、捕らへて給はれと申す事也。切て給はれとは申さず。存外なる事也。」とて越度にせしと也。とかく迯ぐる者を追うて「頼む」といふ時は、切るか捕ゆるかを追い来る者に詞を懸くべき事也。 |
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四、 又或所にて、前の如く「それそれ頼む」といひ来る。向うより来る者、「心得たり」とて彼来る者に云く、「随分足早に迯ぐるべし。其の方に意趣なし。頼まれたれば、拠なし。我も追い懸くべし。其の方を切害する心曾てなし。早く迯よ」といひて、其の身も同じく、「やれ迯げよやれ迯げよ」と云いて共に走り行きて、何処ともなく行しと也。 |
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伍、 又或老人、途中にて前の如く「頼む」と申して追い懸け来る。迯ぐる者も足早に迯げ来る。老人、「頼む」と申すに向かいて右の方の耳に指をさし、「何と申さるやらん。我つんぼにて聞きわけぬ」といふ躰にもてなし、迯ぐる者間近く来ると、袴の股立ちを取りながら、「耳遠きによりて訳聞こえず、訳が聞こえて討つか捕るか慥かに頼まれては是非なくたのまるるぞ」と独り言いひながら、追い懸くる者に、「我はつんぼ也。何と御申し候や聞き分けず。」と申して、其の場を済ましたると也。 |
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六、 又或者、前の如く「頼む」と詞を懸けられて「心得たり」と路の真中に立ちて、「我立ちたる左の方は頼みゆへ通すまじ。右の方を通りて通るは存ぜずぞ」と断りて、召使をも我立ちたる左の方へ並べ、袴の股立ちを取り、刀に反り打ちて、迯ぐる者に目を付居たり。迯ぐる者も其の詞を聞きし故、立ちたる者の右の方を足早に逃げ通りたり。追い懸る者に、「御頼み故約束の方を固めたり。」と断り候由。 |
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七、 江戸糀町にて、或者馬上にて行く時、向うより咎人を追い来たり、「頼む、止めて給われ」と言葉をかくる。其の時、馬より飛び降り鑓を取りて、「心得たり。此の道は通さぬが、目を開けて通れ」といふ。咎人、横小路有りけるに、其の方へ退き行きしと也。(よく見たら小道があった。) |
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答えはありません。 |
では引き続き、意気地貫きエピソードをどうぞ。(ってまだ書いてません。) |